5年 総合的な学習「南部町と果樹栽培」 総合から理科へ、そしてまた総合へと、 教科と総合を往復して学習が深まっていくふるさと学習の実践 | |
指導者 | 葛谷 貴春 |
1.教科学習を発展させるふるさと学習(Aプランの学習)について
本校のふるさと学習は、子どもが創り子どもが解決していく子ども主体の学習である。特に、Aプランの学習は、子どもの願いを第一に考えた学習である。
子どもの生活に密着した問題をどこまでも追及していくと「こんなこともやってみたい」という願いや「これはどうして?」という新たな疑問が生まれ、それは時として学習指導要領の内容を超えて学習が発展していく。そのことによって、子どものやる気や実践力を高め、より深い自然認識に到達していく。これがAプランの学習である。
どうして種子を持っていない果実
2.本単元の学習の意義
(1)教科と総合がリンクする場面
- ふるさとの基幹産業であるリンゴ、ブドウを栽培して、町営市場に出荷するという一連の勤労生活活動の中から、受粉に対する問題意識が生まれ、理科学習に発展して追究する。
- 単なる受粉という学習指導要領で示された内容を超えて、植物は種類によって虫や風に頼ったり、自花受粉したりと様々な仕組みで受粉していることを種それぞれが確実に結実させるための戦略であるという見方ができるようにし、自然の成り立ちの巧さを感得する。
- 果樹栽培を通して農薬問題に対する関心を高め、無農薬や有機栽培の意義やそのやり方について「子どもふるさとサミット」や「子ども議会」を通して学び、環境保全への意識を高める。
(2)本単元の学習のポイント
感性を磨き、身近な自然現象、社会現象に興味を持ち次々と疑問を解決していく | → | めざす 子ども像 |
| → | ふ る さ と 大 好 き |
3.指導計画(全51時間)
本実践事例は「1次 農作物と受粉」を中心に紹介している。
4.授業の実践
(1)学習場面-1 リンゴの受粉について(5月)
南部町の基幹産業がリンゴやブドウなどの果樹であることを学んだ子ども達は、リンゴとブドウを栽培して、南部町営市場に出荷しようということになった。
そこでまず、リンゴ農園でタンポという道具を用いて中心花の雌しべに花粉をつける人工受粉の作業を体験した。また、マメコバチが花から花へ花粉を運んでいる様子も観察した。
子ども達は、なぜこのような作業をしなければならないのか疑問に感じた。花粉が花の中心に付かなければ実がならないと話には聞くが、ひょっとしたら花粉がなくても実はなるのではないかと考える子が学級の半分以上いた。
菜園の土壌を準備する方法
そこで、20の中心花のつぼみを任意に選び、袋をかぶせて外部から花粉が入らないようにして実がなるかどうかの実験をした。1週間後に袋をとってみると、花は全て枯れており、実はならなかった。このことから子ども達は、花粉が付かなくては絶対に実がならないことを学んだ。
(2)学習場面-2 ブドウの受粉について(6月)
南部町は青森県ブドウ発祥の地でもあり、リンゴの次に収穫高が高い。子ども達は、土を耕し、農薬をまき、芯止めの作業を行っていく中で、当然ブドウもリンゴの花のように人工受粉をするものとばかり思っていた。しかし、指導の中居さんは、「ブドウは人工受粉しなくてもいいんだよ」と発言したために、子ども達は一様に驚き、どうして人工受粉をしなくてもいいのか疑問に思った。
学習問題
「ブドウはどのように受粉するのだろうか」
子どもの予想
- リンゴでマメコバチが花粉を運んでいたようにブドウも虫が花粉を運ぶのではないか。
- ブドウの花なんて見たことないし、受粉しなくても実がなるのではないか。
- よくわからないが受粉するための特別な仕組みがあるのではないか。
検証
各グループごとの調査を行った。ブドウ畑に出かけた子ども達は、アリ、ミツバチ、バッタを見つけたが、いずれの虫の体からも花粉らしきものは見つけられなかった。ブドウの花に触ってみると、黄色い粉が付いた。花粉はあるのだ。ただ一つ一つの花が小さくてよく様子が分からない。そこで花を採取し、双眼実体顕微鏡で観察した結果、雄しべと雌しべがはっきりと確認でき、雄しべには花粉があることも確認できた。花の仕組みを調べたところ、どうやら花冠(サック)がとれる際に葯が柱頭に触れて自然に花粉が付く仕組みになっていることに気付いた。指導の中居さんにたずねると、自花受粉をしているということであった。子ども達は、リンゴとは違って開花するときに自然に受粉するなんて、とても便利だなと感じた� ��うであった。
(3)学習場面-3 カボチャの受粉について(7月)
リンゴやブドウの受粉を調べてきた子ども達の興味はほかの作物の受粉へと広がっていった。バケツで栽培しているイネ、学校農園で育てているカボチャやトウモロコシ、4年生の頃に育てたヘチマやヒョウタンである。7月初めに学校農園に出かけた子ども達は、カボチャの花を観察したところ、付け根に実のようなふくらみのあるものと、ないものの、2種類があることに気が付いた。
ふくらみのある方は雌花だということが分かった。花の中を観察してみるとふくらみのない方には花粉があるので、それが雄花だということが分かった。しかし同時に、雄花と雌花が離れていても受粉できるのだろうかという問題意識を持った。
学習問題
「カボチャはどのように受粉するのだろうか」
子どもの予想
どのくらいの時間が増加するコラードがかかりますか
- 雌花のつけ根を見ると実のようなものができているので、受粉しなくてもこのまま大きくなっていくのではないか。
- 畑にはたくさん虫がいるので虫が花粉を運んでいるのではないか。
- スギ花粉のように風で運ばれて受粉するのではないか。
検証
1週間後に畑に出かけてみると、ミツバチやハエ、ハナムグリなどたくさんの虫を観察することができた。これらの虫をつかまえて体を調べてみると、脚や体にたくさんの花粉が付いていた。このことにより、虫の力を借りて受粉していることが分かった。また、2種類の花の中心部を指で触ると、雄しべは指にたくさんの花粉が付き、めしべの先はねばねばしていた。雌しべは花粉が付きやすいように接着剤のような仕組みがあるのだ。これもカボチャの花の知恵なのかなぁと、子ども達はすっかり感心してしまった。
(4)学習場面-4 植物の受粉について考え、話し合う
これまでの各々の作物の受粉についてまとめると のようになっている。
子ども達は植物によって受粉の仕組みがいろいろなことに興味を持った。そして、そのことには何か意味があるのではないかと考え、話し合ってみることにした。
表1:作物の受粉の仕組み
作物 | 受粉の仕組み |
リンゴ | 人工受粉、虫による受粉 |
ブドウ | 自分花粉 |
カボチャ | 虫による受粉 |
C1: | どうして、作物によって受粉の仕組みがいろいろちがっているのかな? |
T: | それぞれの花の特徴を考えてみるといいね。 |
C2: | リンゴやカボチャは1つの花が大きくて目立つし、みつもあるから虫に見つかりやすいし、確実に虫が花粉を運んでくれそうだ。 |
C3: | ブドウは1つの房に細かい花がたくさんついているから、1つ1つの花に虫が花粉を運ぶといっても実際には無理じゃない? |
C4: | そうか、1つ1つの花が自花受粉すれば、ちゃんと全部実になるんだね。 |
C5: | たぶんブドウのように実がたくさんある植物は、虫がいくら頑張っても全部に受粉させることができないから自花受粉するんじゃないかな。 |
C6: | きっとそうだよ。イネなんかも実がたくさんあるでしょう。だから、ブドウのように自花受粉してるんじゃないかな? |
C7: | それぞれの花はちゃんと実を作るために、いろいろな方法で受粉しているんだ。 |
C8: | 植物の知恵ってすごいね。 |
C9: | トウモロコシなんかはどうなっているんだろう? |
T: | そうだね。トウモロコシも実が多いから自花受粉しているかも知れないね。今度、農園に植えてあるトウモロコシも調べてみようね。 |
5.考察
理科教育で実際に受粉を扱っても、子ども達は扱ったその種類の受粉の仕組みについては理解するが、他の植物はどうだろうかと場面をかえると、受粉しなくても結実しそうだと思いがちである。つまり、1種類の受粉だけでは、半分かりの状態に近いのである。
本単元では、南部町特産の農作物を数種類次々と教材化したが、ことによって、前の学習が次の学習に転化し、子どもの受粉に対する考え方が一般化されていった。カボチャの受粉を扱う際にも、雌花のつぼみを見た子ども達は、付け根に実のようなものができている様子を見て、まだつぼみなのに実ができているということは、ブドウのように自花受粉しているのではないかと考える子どももいた。リンゴやブドウの受粉を経験しなければこのような発想は生まれてこないであろう。
また、植物の種類と受粉の仕組みの違いを実の数と結び付けて発想した。つまり、「実の数が多い植物は虫に頼っていると、全ての花にうまく受粉できないので自花受粉をする」という考え方である。それを植物の「生き残るための戦略である」というふうに見ることで、子ども達にとって自然の仕組みの面白さを感得する学習になったのではないかと考える。これは、学習指導要領を超えた授業展開だからこそできたのではないかと思う。
6.子どもの変容
- 受粉に非常に興味を持ち、周りにある全ての植物の受粉について調べてみたいという、意欲を示すようになった。また、それらの花は虫媒花なのか風媒花なのかということを予想して観察するようになった。
- カボチャやリンゴなどの受粉に虫が必要だという事実に目を向け、自然界における虫の役割に感動し、普段気持ち悪いと感じていた虫に対して感謝の目を向けるようになった。
- 化学肥料や農薬と安全な食品について考えるようになり、虫食いの野菜を見た時に、虫が食べたということは、人間の体にもいい野菜だという見方をするようになり、見てくれだけで判断しないというような消費者の資質を高めた。
- EM農法に関心を持ち、農薬や科学肥料を使わずに人間にとっても自然にとっても安全な作物を作りたいという願いを持つようになった。
5年生の感想文より
ぼくは、今までおいしいリンゴやブドウをたくさん食べてきた。でも、農家の人たちがおいしい作物を作ろうと、一生懸命に働いていることは何も分かっていなかった。
この学習をやって、作物にはいろいろな受粉の仕組みがあることが分かった。それも、それぞれの作物が自分が実をならせるために都合のよい方法を選んでいる。また、虫達も花粉を運び大活躍をしている。ぼくは自然ってすばらしいなぁと感じた。また、農家では収入を増やすためにいろいろな工夫をしたり、農薬についてもいろいろと考えたりしていることも分かった。
農家の人達は、いい作物を作るために、病害虫を防いだり、肥料の管理や日光が当たるような管理を頑張ったりしている。そのために農薬を使うのは仕方ないことなのかなぁという気がする。
しかし、農業改良普及センターの人から「このまま農薬や化学肥料を使い続けると畑はおとろえ、人間の体にも環境ホルモンなどの影響が心配されている」という話を聞いて、ぼくは驚いてしまった。ぼくたちの作ったブドウのアンケート調査から、消費者が農薬の少ない安全な作物かどうかを心配していることも分かった。
「子どもふるさとサミット」では、微生物を利用したEM農法というものがあるということを聞いた。「EM農法は地球を救う」という本もあるそうだ。ぼくはこのEM農法についてもっと知りたいと思った。
そこで、「子ども議会」ではそのことについて質問してみた。町の産業課長さんは、町でEM農法についての学習会を開いてくれることを約束してくれた。
ぼくは来年、EM農法について勉強し、 実際にやってみたいと思う。
以上
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